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「月光の幻」/黒ブキ◆lg0Ts41PPY (ったく!二学期入ってから課題とか多すぎなんだよ!) 大輔は机をゴソゴソ探りなから一人ごちた。 (しかも三回忘れたら補習とか!ありえねーし!) 時間は21時。夕飯後、忘れ物に気付いて学校に取りに戻った。 本当なら鍵が閉まってるのだが、生徒の間では幾つかの侵入ポイントが 公然の秘密となっており、大輔もその一つから忍び込んだ。 教室には月明かりが差し込み懐中電灯もいらないくらいだ。 ふと、隣の席に目をやる。 『ちぇーっ。ラブの隣かよ。』 席替えの時についそんな軽口を叩いた事を思い出す。 内心は嬉しくて堪らず、にやける顔を誤魔化すための照れ隠しだったのだが。 (オレ、東にも謝った方がいいのかな…。) この間の事だ。中々ラブと話すタイミングが掴めず、八つ当たりのように、 ちやほやされるせつなを皮肉った。 本気でせつなが疎ましかった訳ではない。 ただ、容姿の良さや勉強、スポーツで 転校初日からクラスの注目を集めた上にラブに構われっぱなしのせつなに、 まぁ、何と言うか、嫉妬しただけなのだ。 (でも、そんなに怒る事かよ。) 大輔としてはほんの軽い気持ちで出たものだ。深い意味もない。 でもラブの怒りは本物だった。 今まで散々軽口を叩き合ってきたが、あんなに本気の怒りをラブが 見せた事はなかった。 (何なんだよ、せつなせつなって気持ち悪りぃ。ベタベタし過ぎなんだよ。) その時、廊下にチラリと明かりが映った。 (っやばっ!見廻りか?) 大輔はキョトキョトとし、取り敢えず教室前の方まで移動して、教卓の影に隠れた。 「あっ!ラッキー、鍵開いてるよ!」 「先客が居たんじゃない?ラブみたいな。」 「なによ、もう!せつなの意地悪!」 クスクスと笑いを含み、からかうような声と、少し拗ねた風を装った声。 (……ラブと、東?) こんな時間まで2人で何やってんだ?と、思いながら、 一緒に暮らしてる、と言っていたラブの言葉を思い出した。 「あった?」 「あったあった。まったく課題多すぎ!しかも三回忘れで補習!ありえないよねぇ!!」 (……ラブも忘れ物かよ。) しかも自分と同じ事を言っているラブに何だかくすぐったいような気分になる。 それにしても、つい隠れてしまったがどうするか。今さら出て行くのも 気まずいと言うか……。 ラブ達が帰ったらこっそり消えるか。 「ふふふー…、せーつな。」 「きゃっ……!何?」 「だってぇ。せつな学校じゃ、あんまり触らせてくれないんだもん。」 「……そんな、……しょうがないじゃない。」 (………?) 「ちょーっぴり……不安になっちゃうかも。せつな可愛いからさ。 男子にも女子にもモテモテなんだもん。」 「………何言ってるの?そんなの……。転校生だから珍しがられてるだけよ。 そんな事言うならラブの方こそ……」 「あたしが?なんかある?」 「………仲のいい友達、たくさんいるじゃない。 …それに、大輔君だって……」 「へ?……大輔?」 昼間とは違う雰囲気を醸し出している2人に、嫌な違和感を覚える大輔。 自分の名前が出た事が気になりつつも、体が硬くなり教卓の影で身を縮める。 「すごく、親しそうだし。男子で大輔君の事だけ呼び捨てだし……」 「エェー?大輔とあたしが…ってコト?ナイナイ、それはない。」 「………でも、ラブはそうでも、大輔君は分からないじゃない。」 「いやぁ、大輔が?あたしを?それこそでしょー?」 「…………。」 「ははーん?せつなぁ……。ヤキモチ?」 「………………。」 「もぉ!可愛いなぁ、せつなはぁ。」 「そんなんじゃ、………んん……」 急に無言になった2人。 大輔は強張った体を捻り、様子を窺おとする。頭の隅から、 見るな、と言う声が聞こえる。 しかし、もう遅かった。 大輔はポカン……と顎を落とす。目の前の光景に声が出ない。 昼間のように明るい月明かりの教室。 ぴったりと重なるようにラブがせつなを抱きすくめている。 キス……。そんな軽い言葉では済まない。 教室の端と端でも、何度も角度を変え、深く重なっているのが分かる唇。 その奥で舌が絡まり合っているだろう事が知れる。 濡れた音さえ聞こえそうなほどに。 ラブの腕はせつなの細い腰に回され、もう片方はうなじ、背中、脇腹…と 慣れた手つきで撫で回す。 せつなはラブの首に腕を絡め、ラブの行為を当たり前の事のように 受け入れている。 身も心も許しあった、恋人同士の濃密な愛撫。 ラブの手がせつなの内腿を揉むように撫でながら、 スカートの中に潜り込もうとしている。 せつなはラブのいたずらな指先の浸入を拒むように、 あるいは逃がさず誘い込むように股を擦り合わせる。 2人の動作の細かな一つ一つまでが、精密な静止画のように 大輔の脳裏に焼き付く。 思考が麻痺し、ただ焼き付いた画像だけが頭の中に溜まっていく。 「……大輔は、ただの友達だよ。」 「………本当に…?」 「そりゃあ、他の男子よりはちょっとは仲良いかもだけどさ。」 「………。」 「もし、もしね、…万が一、大輔があたしを…無いよ?絶対無いけど。 そんな事があってもさ。関係ないよ。」 「………ラブ?」 「分かってるでしょ?あたしが好きなのはせつなだけ。 どれくらい大好きで大切か知ってるでしょ? 大輔は、友達。せつなとは比べられないよ。」 「………ん、ごめんなさい…。」 「もう…、まさか信じてくれてない?」 「…だから……ごめんなさい。」 身を寄せ、時にお互いの唇をついばみながらの甘い囁き。 大輔は2人の間に漂う淫靡な空気に、ずっと密かに思ってきたラブの口から出た、 『ただの友達』と言う台詞にショックを受ける事すら忘れていた。 「あっ……。ダメ、これ以上は……やっ…。」 「なんで……?誰もいないよ?いいじゃん。」 「……あんっ…、ここ、学校よ。……こんな事しちゃいけないわ……。」 「せつなは真面目さんだねぇ……。」 「……だからっ…んんっ……ダメ。…続きは帰ってから…、ね?」 「絶対だよ……?」 ラブの指先がせつなの胸元を引っ掻くような仕草を見せ、耳朶を甘噛みする。 せつなは微かに眉を寄せ、少し開いた唇から濡れた吐息を漏らし、身を捩る。 大輔の体が震える。頭に不快な金属音が響き、吐き気がする。 思わず目をそらし、床に視線を落とす。 その時……… 蒼白い月光に包まれていた教室に、一瞬、夕焼けよりも赤い光が満ちる。 (……なっ…何だ?!) 思わず顔を上げる。 そこには、相変わらずの眩いばかりの銀色の月光。 それに、静まりかえった人の気配すらない教室。 (…………はあっ?) ついさっきまで、体をまさぐり合っていたはずのラブとせつなは 影も形もない。 大輔が視線を外したのはほんの一瞬。扉までの数メートルを 移動する時間すらないだろう。 それに、古い教室の引き戸は開け閉めすると派手に軋んだ音がする。 例え、思いの外長く思考停止していたとしても気付かないはずがない。 (は……はは、夢?ってか、妄想か?) 大輔は床に尻餅を付き、自分の髪ををグシャグシャに掻き回す。 (そっか、そーだよな。あんなの……ありえねーしよ……) 頭の奥で、違う。と叫ぶ声がする。 しかし、大輔はそれを無視して聞こえない振りをした。 あんな事、あり得ない。あるはずがない。 (しっかし、オレも趣味悪ぃな。どうせ想像するなら、もっとこう……、 ってか、なんで相手が東なんだよなぁ?) きっと、八つ当たりで暴言を吐いた罪悪感がそうさせたんだ。 そうに違いない。 大輔は、自分でも丸っきり説得力の無い理由だと分かりながら、無理やり 納得したと信じ込もうとする。 夢なんだよ……。 頭に焼き付いてしまった、画像が意思と関係なくフラッシュバックする。 深く重なった唇。 お互いの体をまさぐる手慣れた手付き。 甘く囁く、湿度の高い声。 夢なんだよ。 そう、大輔は自分に言い聞かせる。暗示を掛けるように。
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140文字SS:フレッシュプリキュア!【2】 1.ラブせつで『見てないけど』/ねぎぼう 「美希、ラブ見なかった?」 「見てないけど」 「ほんと何処に……」 せつなが去っていく。 「ごめん、美希たん!」 「ラブ、一体何したの?」 「ニンジンわざと買い忘れたのがバレちゃって」 「それはラブが悪い」 「そんなあ……」 「ちゃんと謝ること!」 「はぁ~い」 (ナントカは犬も喰わぬ、かしら?) 2.ラブせつで『幸福な朝』/ねぎぼう 「なんだこのオムレツの赤いのは」 「皆まで言わせないで。貴方達の顔よ!でもやはり難しいわね」 「そう言えばあの世界にはコーヒーの上に絵を描くラテアートというのがあってね……」 「でもお前みたいに山ほど角砂糖入れてたら絵も何もないだろ?」…… ありがとう、ラブ。 今日も幸福な朝だわ。 3.ラブせつで『手だけつないで』/ねぎぼう 「みんなで……ゆうごはーん」 ラブの歌声にせつながそっと応える。 手だけつないでいても伝わってくる温かさそして幸せが、 歌うことを知らなかったせつなに歌声をも授けたかのようであった。 二人の少女は星空の下の丘を駆けていく。 つなぐその手は互いにつかみ取った幸せのクローバー。 4.ラブせつで『美しい終わり方』/ねぎぼう (あのまま寿命が終わるのを座して待つくらいなら、 貴女と戦っていっそ倒される方がまだ美しい終わり方だと思ってたわ。 なのに、貴女といるとやはり私の中で何かがおかしくなっていったの。 あの清々しさはこれで思い残すことはないという気持ちの筈だったのに……) せつなの中に生きるイースの戸惑い 5.ラブせつで『ありふれた日常の中の幸せ』/ねぎぼう 「今日の献立酢鳥だね」 「酢鳥だわ」 「ピーマン入ってるよ」 「ニンジンもね」 「残しちゃおっかなあ……」 「ダメよ、私、食べるわ」 「それじゃあたしも」 (忍耐の食事) 「デザートはプリンだよ!」 「ええ」 (一匙口にする) 「プリンおいしい~」 ありふれた日常の中の幸せを感じる三学期の給食タイム。 6.ラブせつで『ゲームを始めようか』/ねぎぼう 二人でお小遣いをためて開店前から並んでゲットした 人気のダンスゲームソフト。 「せつな、ゲームを始めようか」 ところが電源をオンしてもうんともすんとも言わない。 「ピーチはんそれ最近調子悪いんや、叩いてみ」 タルトとラブが叩いてみるも点かない。 「精一杯頑張るわ!」 せつなの一撃に 「あ……」 7.ラブせつで『受け止めてくれるのはあなただけ』/ねぎぼう もう受け止めてくれるのはあなただけじゃなかったのね。 独りだと思い込んでた私を、 最後は一人で始末をつけるしかないと思ってた私を 皆が受け止めてくれていたの。 でもね、信じて飛び込んで行くことを、手を伸ばすことを 教えてくれたのはあなたよ。 受け止めてくれたラブの温もりを忘れない、永遠に。 8.ラブせつで『若いときには無茶をしとけ』/ねぎぼう 「カオルちゃん、結婚したい人がいるんだ…… でも今の日本では出来ないの」 「なら、出来る国の国籍取っちゃえば?」 「それに今はこの世界にいないの」 「その世界に行ったらいいよ。杏より梅が安しってね」 「……うん、行ってくる!」 ラブが駆けていく。 「若いときには無茶をしとけ、だな。グハッ!」 9.ラブせつで『言えない我儘』/ねぎぼう 酢豚に入ったピーマンを見つけ、 遠慮がちに目でお願いするせつな。 「ラブ、それ苦手……」 もう一人の娘が見せる数少ない駄目さが今は愛おしい。 「せつなったら、もうしょうがないなあ。今日だけ……だよ」 滲んで見えない緑色を口に入れる。 最初で最後のいえない我儘は苦くて、しょっぱい味がした。 10.ラブせつで『目を閉じて、三秒(その1)』/ねぎぼう 「ねえ、せつな。ラブちゃんが最後におまじないしてあげる」 「おまじない?」 「目を開けているとできないんだよ」 目を閉じて、三秒…… 唇に温かさが伝わる。 「もう少し目をつぶってて」 涙は見せない。 笑顔で見送ると決めたんだから。 「これで大丈夫だよ」 目の周りをやや赤くした天使が微笑んだ。
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アスタリスクラブ 作詞/54スレ49 切ないラブソング聴きながら 指に残る過去をなぞってく 身体に染み付いた香りに 胸の奥が炎を灯(とも)す 洗濯したベッドのシーツに そっと残る跡はまだ赤い 繊維に染み付いた思い出に 耳の奥はうずくだけ 出会った頃は 友達だった いつも一緒に 笑い合ってた 気づけば恋や愛を超えた 関係になってたのに ホタルの尻が灯るみたいに 二人求め合ったよね 熱を帯びた月のスピードで ツき合った夜もあった ホタルの尻が消えるみたいに 果てるそんな日もあった ツかれた後に飲むアルコールで 夢の中へ落ちていく Boys Love... My Lover Boy... Good Bye Boy... My Love Is End... YARANAIKA STORY...
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【1月21日】 『大好き』 シフォン「キュアキュア~」 祈里 「シフォンちゃん、おやつが食べたいのね」 ラブ 「チョコレートにクッキー。ケーキにアイスクリーム、あと、ドーナツ! 何がいい?」 祈里 「もう、ラブちゃんが食べるんじゃないのよ」 美希 「ラブって食べ物のことになると目が輝くわね」 ラブ 「だって~。美味しいものを食べるのって、幸せって感じしない?」 せつな「くすっ。ラブの食欲は大好きな人と一緒にいる時ほど増すのよね」 【1月22日】 『みんなで、はぁ~』 せつな「毎日とっても寒いわね~。はぁ~って息を吐くと、白くなるわ」 美希 「はぁ~。こうすると、冬って感じがするわね」 祈里 「はぁ~。吐息の水蒸気が水に戻るから白く見えるのよ」 ラブ 「はぁ~。なんとなく綺麗でいいよね」 あゆみ「若い娘の仕草は可愛らしいわね。ちょっとうらやましいかも」 【1月23日】 『のんびりしてました』 ミユキ「さぁ、みんな! 久しぶりにダンスレッスン始めるわよ!」 四人 「ハイッ! ――――はぁ、はぁ、はぁ、もうダメ」 ミユキ「……みんな、冬休みの間、走るくらいはしてた?」 四人 「それが……」 ミユキ「それじゃあ夏合宿の時と一緒じゃない。ビシバシ鍛え直すわよ!」 【1月24日】 『クイズです!』 美希 「今日はクイズです。ラブの苦手な食べ物はなぁ~んだ? 答えは明日!」 祈里 「ヒント、その① 今年の干支のうさぎさんの好物よ」 タルト「まだ、わからへんかな? もう一声や!」 祈里 「お馬さんも大好きな食べ物なのよ」 タルト「パインはん、さっきから動物の話ばっかやないか」 祈里 「ごめんなさい。じゃあね、子供は嫌いな子が多い野菜よ」 せつな「要するに、ラブは子供ってことよね」 ラブ 「せつなの番もあるんだからね?」 【1月25日】 『他人事じゃない』 美希 「ラブの苦手な食べ物はニンジン。ラブったら、ニンジンも美容にいいのに」 祈里 「わたしはニンジン大好きよ。甘くて美味しいのに」 ラブ 「だって、食感が気持ち悪いんだもん。美希たんは苦手な食べ物ないの?」 美希 「完璧なアタシに、苦手な食べ物なんてないわ」 せつな「みんな、お好み焼き食べに行きましょう!」 美希 「ごめんなさい……」 【1月26日】 『外に行こう!』 ウエスター「フッ、フッ、フッ。今日はなんだか、いいことがありそうな気がするぞ」 サウラー 「気のせいだろう。僕は部屋で本でも読んでいることにするよ」 ウエスター「焼き芋、タコ焼き、ラーメン、寒い日は熱々の食べ物が美味いぞ!」 サウラー 「僕はコタツにミカンで十分だ」 ウエスター「冬こそスポーツだ! 体が温まって気持ちいいぞう」 サウラー 「寒いのはおっくうだ。布団の中が気持ちいいよ」 ウエスター「ええい! いいから来い! その性根を叩きなおしてやる!」 【1月27日】 『満天の星空を見上げて』 せつな「冬は星がとっても綺麗に見えるのね」 ラブ 「あたし、星を見ながら時々お願い事するんだ」 美希 「リゲル、シリウス、プロキオン。星って姿も名前も美しいわね」 祈里 「こいぬ座、おおいぬ座、おうし座。冬の星座は名前も可愛いね」 せつな「楽しみ方も色々なのね」 【1月28日】 『トリニティの真髄』 ミユキ「今日はトリニティの三人で、ダンスステージに出演するの!」 ラブ 「わ~見たい! トリニティのステージはいつ見ても感動です」 せつな「トリニティって、三位一体って意味なんですよね?」 ミユキ「そうよ、三人の心と体を一つにするって意味なの」 美希 「その名の通り、息も動きも完璧に一致してるのよね」 祈里 「うん、いつ見てもびっくりしちゃう!」 タルト(その割には、逃げる時はいつもミユキはん置いてかれてるような……) 【1月29日】 『寝る前に飲むといいらしい』 祈里 「寒い日は、お家でホットミルクを飲むのがお気に入りなの」 せつな「私も好きよ。なんだか気分が落ち着くの」 ラブ 「バナナとココアとお砂糖をミキサーにかけて温めると美味しいよ!」 祈里 「それ、もうホットミルクと言わないんじゃ……」 美希 「聞いてるだけで太りそう……」 【1月30日】 『手取り足取り』 ラブ 「新しいステップをミユキさんに教わったの。って難しいよ~」 せつな「あせらないで。はじめはゆっくりと、正確に覚えましょう」 ラブ 「うん! がんばるよ!」 美希 「最後に加入したせつなに教わってどうするんだか……」 祈里 「でも、せつなちゃん凄く上手だし、ラブちゃんも上達すごいね」 美希 「いいなぁ~。家で二人で仲良くレッスンしてるんだろうなぁ~」 祈里 「わたしたちもお泊りする?」 【1月31日】 『幸せのカタチ』 カオルちゃん「兄弟、新しいドーナツ食べてみる?」 タルト「もぉ~! ムチャクチャうまいがな!」 カオルちゃん「だろう? おじさんって天才だから、ぐはっ」 美希 「自分で言ってれば世話ないわね、どれどれ、……ほんとに美味しい」 せつな「美希にだけは言われたくないわよね。あっ、……おいしい」 ラブ 「うわっは~、口の中で幸せが広がるよ、カオルちゃん!」 祈里 「シフォンちゃんもおいしいって」 カオルちゃん「どんなドーナツも、中からのぞく笑顔は変わらないのよね」 避2-573へ
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幸せの赤い翼 第1話――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)―― ごくごく普通の、どこにでもあるような家庭だった。ほんのちょっとだけ裕福で、ほんのちょっとだけ敷地が広くて。 うんと優しいお父さんとお母さんの間に生まれた、ごくごく普通の女の子だった。 「お父さん、これは?」 「おまえが、ずっと欲しがっていたものだよ。開けてごらん」 それは、その子の五歳の誕生日のこと。 かねてより、おねだりしていたテディベアのヌイグルミを、お父さんが買ってきてくれたのだ。 テーブルの上には、五本のローソクが並んだ、大きなお誕生日ケーキ。そして、所狭しと並んだご馳走の数々。 そんなものには目もくれず、少女はもらったばかりのヌイグルミに夢中になった。 「テディベアちゃん? クマちゃんでいいよね! ずっと、お友達でいようね」 「大切にするのよ」 いつも一緒だった。雨で家の中にいる日も、お父さんとお母さんの帰りを待つ時間も、ヌイグルミと一緒なら苦にならなかった。 外でも一緒だった。晴れて公園で遊ぶ日も、お友だちと追いかけっこして遊ぶ時間も、ヌイグルミと一緒に手をつないで走った。 寝る時も一緒だった。お勉強する時も一緒だった。ずっと、こんな時間が続くと思っていた。 その時が、来るまでは―― 『幸せの赤い翼――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(古き友の呼び声)――』 ラブ――ラブ――ラブ―― ラブ――ラブ―― 誰かの呼び声が聞こえたような気がして、ラブはキョロキョロと辺りを見渡す。 「えっ? 今、なにか言った?」 「どうしたの? ラブ」 「なにも聞こえないわ」 「わたしも、なにも聞こえなかったよ」 「寝ぼけとんとちゃうか? 昨日も夜更かししてたみたいやし」 「失礼ね~、昨日はお部屋のお片づけしてたから」 「普段から、ちゃんとしてないからそうなるのよ」 「いや~、それを言われると……」 明日、公園でフリーマーケットが開催されるらしい。張り紙を見た四人は、不用品を集めて出品することにした。 美希は迷わず山のように、祈里は慎重に見極めて、ラブは、迷った挙句に何も出せずに……。 それでも、しぶしぶ古着や古雑貨などをカバンに詰めていった。 「せつなの準備は進んでるの?」 「私は、不用品なんて持ってないもの。みんなのお手伝いをするつもりよ」 「そっか、せつなちゃんの持ち物は、どれも買ってもらったばかりよね」 「それに、古くなっても売ることなんてできないわ。だから、本当に使えなくなるまで新しい物もいらない」 「ええっ~、どんどん買ってもらって、全部大切にすればいいじゃない」 「そうして、ラブの部屋のクローゼットみたいにごちゃごちゃになるんでしょ? お断りよ」 「そういうラブちゃんも、あんまり新しいもの買わないね」 「それでも物がたまるのは、整理整頓ができてないからよ。整頓の前に整理。不用品を処分しなきゃ」 「だって、全部大切な物だから……。捨てるなんてできないよ」 「そのためのフリーマーケットでしょ? 帰ったら、ちゃんと、もう一度整理するのよ」 「はぁ~い」 出品場所の確認と打ち合わせを終えて、四人は一旦家に帰ることにする。 「それじゃ、また後でね」 「夕方、ラブちゃん家に伺うね」 「うんっ! 待ってるね~」 「ラブ。夕方って、フリーマーケットは明日のはずじゃあ?」 「明日の朝は早いでしょ? それなら、せっかくだから今夜はパジャマパーティーやろうと思って」 「パジャマパーティー?」 「えへへ、後のお楽しみ。せつな、今夜は寝かさないよ?」 「ええっ? 一体なんのことなの」 「ふわぁ~あ、結局、今夜も夜更かしかいな。付き合うこっちがもたへんわ」 「ぱじゃま、ぱーてぃー、キュア~」 不思議そうなせつなの表情を横目に見ながら、ラブはメモ用紙を取り出す。 じゃがいも、たまねぎ、カレールウ、それに……。 せつなが横から覗き込む。 「お買い物して帰るのね。メニューはカレーライス? それにしても、ずいぶん量が多いのね」 「そうだよね、ニンジンくらいは減らしても……」 「ダメよ、ラブ。ちゃんと書いてある通りに買わなきゃ」 「それじゃ、あたしの分も食べてくれる?」 「それもダメ。同じだけ食べてもらうわよ」 「ええっ~」 二人は、買い物をするために商店街へと急いだ。 大きな荷物を抱えた美希と祈里が、ラブの家の玄関の扉を叩く。 手持ち無沙汰だったせつなが、真っ先に駆け寄ってドアを開けて出迎えた。 「いらっしゃい、美希、ブッキー」 「美希たん、ブッキー、待ってたよ~」 「ありがとう、お邪魔します。おじさん、おばさん、ラブ、せつな」 「今夜一晩、よろしくお願いします」 「どうぞ、ゆっくりしていってね」 ラブの部屋に着いた美希と祈里は、タルトを押入れの中に閉じ込めて、すぐにカバンからパジャマを取り出して着替えていく。 突然服を脱ぎだして、下着姿になる美希と祈里に、せつなは驚いて目をパチクリさせる。 ラブに事情の説明を求めようとして、ラブも脱いでいることに気が付いた。 「ちょっと、一体なに? 食事も済んでないし、お風呂もまだよ、どういうことなの?」 「いいから、せつなも着替えて。パジャマパーティーなんだから、まずはそこから始めなきゃ!」 一足先に着替え終わったラブが、せつなの部屋にパジャマを取りに行く。 「嫌よ! 私は自分の部屋で着替えるわ。ちょっと、脱がさないでったら!」 「観念しなさ~い、これもコミニュケーションのうちよ」 「わたしたちは、小さい頃からで慣れっこだから」 ラブが戻ってきた時には、下着姿で涙を浮かべて睨んでるせつなと、すっかり着替え終わって苦笑している美希と祈里の姿があった。 「衣服ってのはね、気持ちに影響を与えるの。確かにちょっとだらしないけど、落ち着けるのよね」 「心も身体もリラックスして、ゆったりと時間が流れるのよ」 「フンだ。そんなんで、誤魔化されないんだから!」 「まあまあ、せつな。ふざけっこは仲良しのしるしだよ」 それから、トランプ遊びをした。神経衰弱に、ばば抜き、そして、ポーカー。どれもせつなが圧倒的に強く、罰ゲームで美希と祈里がひどい目にあったのは言うまでもない。 このトランプは、唯一、せつながラビリンスから持ち出したものだった。 「そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ。今夜はカレーだよ」 「オーケー、何でも手伝うわ」 「わたし、自信ない……」 「美希は料理するのね?」 「その意外そうな口調は何よ? アタシは調理も得意なんだから」 「完璧って口にしないところが、ポイントよね」 「言ったわね! こうなったら料理勝負よ、せつな」 「受けて立つわ。ラブ以外には負けないんだから!」 「ちょっと、二人とも仲良くしようよ~」 「大丈夫だよ、ブッキー。さあ行こう!」 調理が始まる。ラブは鮮やかな手付きで野菜の皮をむいて、牛肉の下処理に取りかかる。 ジャガイモとニンジンをカットするせつなと、タマネギを刻む美希の包丁裁き対決は……食材選びの時点で決着がついていた。 「いっただきま~す!」 『いただきます』 祈里が遠慮がちに小声で祈りを捧げた後、みんなで夕ご飯をいただいた。 祈里は軽く、美希はもっと軽く、せつなはしっかりと。ラブは、盛り付けは普通だったが……。 「おかわり~」 「ちょっと、ラブ。食べすぎよ?」 「平気、平気。この後、枕投げで運動するんだから」 「どれほど投げる気なのよ……」 「でも、せつなも思ったより食べるのね」 「ラブがこうだもの。つい、つられてたくさん食べちゃうの」 「あっ~! せつなったら、あたしのせいにするんだ?」 「ラブちゃんって、楽しい時ほどたくさん食べるのよね」 「なるほど、せつなと暮らすのがよっぽど楽しいわけね」 「もう、からかわないで!」 賑やかな食事が終わり、それぞれが後片付けに取りかかった時、突如異変は起こった。 バラエティの放送中だったテレビ番組が、臨時ニュースに差し替えられる。 現在、街中から子供たちの玩具が消失する怪現象が起こっています。原因はまだわかっておりません。 販売店からも、各家庭からも、例外なく消えているらしく―― ただ今、新しい情報が入りました。この現象は、世界各地で起こっている模様です。 また、詳しいことが判り次第―― ラブ、美希、祈里、せつなの表情が変わる。怪現象、それは即ち、ラビリンスの襲撃を意味していた。 わからないのは、世界各地で起こっているということ。これまで、ラビリンスの攻撃による被害は、街の外に及んだことはなかった。 「ともかく、様子を見に行こう!」 『ええ!!!』 四人は、パジャマに上着だけを羽織って飛び出した。 家の外は、酷い有様だった。 家庭のおもちゃ。外で遊んでいる子のおもちゃ。喫茶店のマスコットや、キッズルームのおもちゃ。もちろん、玩具屋さんの商品も根こそぎ消えていた。 街は、消えたおもちゃを探す人々、警察や玩具屋さんに事情を問い詰める人々、泣き喚く子供たちなどで溢れ返っていた。 建物が壊されることを思えば、それほど深刻な事態とは言えないだろう。しかし、これまでの襲撃とは比較にならないほど被害が広範囲に及んでいた。 何より、全ての子供たちから笑顔が失われるのだ。それは、大人たちの気持ちにも影響を与えて……。 街全体が、暗い雰囲気に包まれようとしていた。 「あなたも、おもちゃを無くしてしまったの?」 「ひっく、だいじな……だったのに。お父さんから……。わあぁーん!」 とりわけ悲しそうにしている小さな男の子に、せつなが近づいてそっと声をかける。 その子はついに堪えきれなくなり、堰を切ったように泣き出した。 「そうなの……。単身赴任で遠くに行ってしまった、お父さんからの贈り物だったのね」 「ひどいっ。こんなこと、許せない!」 「子供たちから、不幸を集めるなんて……」 「心配しないで、私が――ううん、プリキュアが、必ず取り戻してくれるから」 せつなの力強い言葉に励まされたのか、その子もようやく泣き止んだ。 とは言え、今回は肝心のナケワメーケの姿が見当たらない。これだけ被害が広範囲だと、居場所の絞込みすらできない。 男の子を家まで送り届けた後、ひとまず帰って対策を立てることにした。 せつなはラブの部屋に戻ると、ためらわずにパジャマを脱ぎ捨て、昼間の服に着替えた。明るい部屋に、雪のように白く美しい肢体が舞う。 先ほど、恥ずかしがっていたのは何だったのかと思うくらい、周りの視線を気にする様子もない。 ラブ、美希、祈里は、顔を見合わせてから、同じように着替えた。 「これだけ広範囲に、一度に働きかける特殊能力……。サウラーのナケワメーケに違いないわ」 「でも、今頃どうして? もう、不幸のエネルギーは必要ないんじゃなかったの?」 「そのはずよ。奴らの目的も、シフォンの奪取に絞られていたもの」 「理由なんてどうだっていいよ! とにかく、早く倒して取り戻さないと!」 「いや、それなんやけどな。どうもラビリンスの仕業やなさそうなんや……」 「どういうこと?」 「よう見てみ? あいつらがやったんなら、クローバーボックスが光るはずやろ」 「確かに、沈黙したままね」 クローバーボックスは、シフォンの危険を知らせる能力を持つ。もしラビリンスの力が働いているなら、その発現地点まで映し出すはずだった。 「でも、ラビリンスじゃないなら、一体誰がこんなことを?」 ラブ――ラブ――ラブ―― ラブ――ラブ―― 「ちょっと今、大事な話してるから待っててね。って! また、聞こえたよ!?」 「今のは、アタシも聞こえたわ」 「怖い。まさか、お化けなんじゃ?」 「みんな落ち着いて。確か、そこのクローゼットの中からよ」 「不思議な声……。初めて聞くはずなのに、なんだか懐かしいような」 「ラブ、気をつけて!」 「おともらち、よんでる。キュア・キュア・プリップ~」 ラブが立ち上がり、声の主を確認しようとする。それより早く、シフォンが宙に浮き上がり、額から力を放った。 クローゼットに命中した光は、やがて内部に吸い込まれる。 そして、音もなく扉が開き、中から一体のヌイグルミが飛び出してきた。 ピンク色の、ウサギのヌイグルミ。それが、フワリと宙に浮き、ラブの名を呼ぶ。 かなり古いものらしく、また、かなり使い込んだものらしく、色あせ、ところどころ破れて、中の綿が飛び出してしまっていた。 「ウサピョン!」 「ウサピョンって?」 「あたしが小さい頃に、よく遊んでいたヌイグルミなの」 「ヌイグルミが、なんでしゃべってんねん!?」 「あなただって、しゃべるフェレットじゃない?」 「ちゃうわ! わいは、可愛い可愛い妖精さんや!」 「はいはい、とにかく今はこの子の話を聞きましょう」 美希の言葉に頷いて、ヌイグルミは、今度はしっかりと話しだす。 「おもちゃや人形たちはね、本当に心の通ったお友達となら、お話ができるのよ」 心が通えば、おもちゃだって会話ができる。だから、自分はみんなのことを全部知っているのだと。 もっとも、これほど自然に話せるのは、シフォンの手助けによるものらしい。 「それで、あなたはどうして無事なの?」 「街のおもちゃは、みんな消えてしまったのよ」 「それは、トイマジンと呼ばれるヤツの仕業よ。なぜか、あたしにはその力が届かなかったの」 「なるほど。シフォンか、クローバーボックスの力で守られていたのね」 ヌイグルミ、ウサピョンの話によると、この世界からおもちゃが消えたのは、おもちゃの国に住むトイマジンと呼ばれる者の仕業らしい。 おもちゃの国は、役目を終えたおもちゃが集まって生まれた場所なんだとか。本来は、新しいおもちゃや、大事にされているおもちゃが連れて行かれることはない。 トイマジンはその禁を破り、世界制服の手始めとして、子供たちから全てのおもちゃを奪ったのだ。 「お願い、あたしと一緒におもちゃの国に来て! トイマジンの野望を止められるのは、プリキュアだけなの」 「わかった。あたし、行くよ。だって、ウサピョンは友達だもの。友達を助けるのは当たり前でしょ」 「ちょっと、ラブ! いきなり異世界に飛び込むなんて無茶よ!」 「落ち着いて、ラブちゃん。その国のこと、相手のこと、何もわかってないのよ?」 「行きましょう。ラブ、美希、ブッキー」 「せつなっ!」 「せつなちゃん?」 「この街の子供たちが、泣いている。戦う理由なんて、それだけで十分よ」 せつなの瞳が、闘志で燃え上がる。静かな口調に、かえって怒りの深さがうかがえる。震える拳を開いて、リンクルンを取り出した。 美希と祈里も、頷いて立ち上がる。止めたところで、せつなは一人ででも行くだろう。何より、困ってる人々を助けたい気持ちは同じだった。 「行こう! 約束したものね。プリキュアが、必ずおもちゃを取り返すって」 「そうね、覚悟を決めましょう!」 「取り戻そう、わたしたちの手で」 「ウサピョン、おもちゃの国を強くイメージして」 「うん、まかせて」 「おもちゃの国へ!」 アカルンの輝きと共に、四人と一匹と二体は、時空の壁を越えて飛び立った。 おもちゃの国に到着した一行の前に、大きな門が立ちはだかる。建物の外周は高い壁で覆われており、他に出入り口はなさそうだった。 よく見ると、プラスチックのブロックで出来ており、規模の大きさに比べて、威圧感はまったくと言っていいほどなかった。 早速、守衛に問い詰められたものの、ウサピョンが用意していた精密なパスポートにより、事も無く入国が許された。 「ここが――おもちゃの国?」 「わはっ、なんだかすっごく楽しそう!」 「どこも、とっても可愛い!」 「キュア~」 積み木とブロックで作られた建物には、大小様々な動物のオブジェが飾られている。 床はジグゾーパズルで出来ており、路面にはモノレールやミニカーなどが、縦横無尽に走り回る。 和洋、今昔、ごったまぜの人形やロボットが、自在に街を闊歩する。 どこまでも自由で、奔放で、はちゃめちゃで―― それは、まるで子供のおもちゃ部屋のようでもあった。 「遊びに来たんじゃないのよ、ラブ。ここはもう、敵の手の内と考えていいわ」 「ごめん、そうだった」 「しかし、なんや、リアリティのない国やなあ」 「タルトがそれを言う?」 「そうよ、お菓子の国の王子のクセに、偏見はよくないわ」 「そんなことまで知っとるんかいな……」 ウサピョンにやり込められるタルトの様子を笑いながらも、せつなは周囲に対する警戒を高めていった。 異世界に慣れているせつなには、この世界に対してもみんなほどの驚きはない。 噴水広場にたどり着いたところで、ウサピョンに向き直る。 「こうしていても始まらないわ。トイマジンというのはどこにいるの?」 「それが、あたしにもよくわからないの」 「だったら、その辺の人に聞いてみればいいよ!」 「そうね」 「果たして、人と言えるかは微妙だと思うけど……」 街の住人たちは、皆、陽気で、声をかけたら親切に応対してくれた。 一緒に遊ぼうと誘う者、探し物があるなら手伝うと名乗り出る者、色々だった。しかし―― 「アタシたちが探しているのは、トイマジンというの。何か知ってるなら」 「知らない! 知ってても教えるものかっ! もう、構わないでくれ」 「ソンナモノハ、コノマチニハ、イナイ。デテイケ! デテイケ!」 「聞こえない。わたしには質問の意味がわからない。さようなら~」 「みんな、どうしちゃったんだろう? 名前を聞いただけで逃げ出すなんて……」 「ラビリンスにおけるメビウスのように、絶対的な存在なのかもしれないわ」 「あっ、あっちにおまわりさんがいるよ、聞いてみよう!」 「待って! ブッキー」 祈里は、犬のおまわりさんの人形に話しかける。 動物の姿に安心したのか、警戒心も持たずに、単刀直入にトイマジンについて質問する。 人懐っこいダックスフンドの表情が、たちまち険しいものとなる。 ワン! ワン! ワン! と、立て続けに吠えると、首に掛けていた笛を思いっきり吹き鳴らした。 それを合図にして、周囲のおもちゃたちが一斉にその場を逃げ出した。 「誰も……いなくなっちゃった」 「ワンちゃんも逃げちゃったね」 「違う――もう、既に囲まれてるわ」 ザッ、ザッ、ザッ 規則正しい足音が、遠くから聞こえてくる。 その数は徐々に増えていき、その音は徐々に大きくなっていき―― やがて姿を現す、無数の人形の群れ。 それは、きらびやかな赤い軍服を着て、黒くて長い毛皮の帽子を被る者。 ピカピカと輝く鉄砲や剣を持ち、颯爽と行進する衛兵たち。 おもちゃの兵隊と呼ばれる、この国の軍隊だった 百を超える銃口が、一斉にせつなたちに向けられる。 「はは……じょ、冗談よ、ね?」 「おもちゃのピストルだから、当たっても痛くないとか?」 口を開いた美希と祈里の間を狙って、兵士の一人が威嚇射撃を放つ。 轟音とともに、後ろの噴水の壁が一部砕け散る。 顔色を変えて、せつな以外の全員が両手を挙げる。 帽子に飾りをつけた、隊長らしき者がせつなたちに投降を呼びかける。 「お前たち、一体どこから来た? 街の治安を乱したからには、ただではすまさんぞ」 「治安を乱したって……、あたしたちはトイマジンの居場所を聞いただけだよ!」 「――反抗の意思とみなす」 隊長の手が垂直に振り上げられ、そして、降ろされる。それを合図に、一斉に銃口がラブに向って火を噴く。 ドン! ドン! ドン! 「きゃっ!」 「危ないっ!」 せつながラブに飛びついて、とっさに弾丸から身をかわす。 「ラブっ!」 「ラブちゃん! せつなちゃん!」 「よくも……、やってくれたわね」 美希と祈里が二人を庇って前に出る。それを押しのけるようにして、怒りの形相のせつながリンクルンを構える。 美希と祈里も、頷いて、それぞれ変身の体勢をとった。 「あくまで刃向かうというのならば、もう容赦せぬぞ」 「容赦なんて、初めからしてないクセにっ!」 「待って!!」 隊長に向って、ウサピョンが抗議する。いよいよ一触即発のムードが漂う中、ラブの声が響く。 「おもちゃの兵隊さんたち、あたしたちをどうするつもりなの? それだけ聞かせて」 「素直に従うなら、おもちゃ城の地下牢に投獄する。処分は、国王様がお決めになる」 「わかった。抵抗しないから、乱暴なことはしないで」 ラブは前に進み出て両手を上げる。それに合わせて、兵隊たちも銃口を降ろした。 「ラブ、このまま捕まっちゃうつもり?」 「何をされるかわからないよ?」 「この数相手じゃ、ウサピョンたちまで守り切る自信がないの。それに、国王様と会えるなら、何かわかるかもしれないでしょ?」 「そうね、いざとなったら変身して逃げ出せばいいわ」 「ついて来い」 幸いにも、拘束するつもりはないようだった。 おもちゃの兵隊に囲まれて、せつなたちは連行される。 おもちゃの国の中央にそびえ立つ、おもちゃのお城に向って。 第2話 幸せの赤い翼――おもちゃの国は秘密がいっぱい!?(国王さまとの邂逅)――へ続く
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御子柴邸へ! 左手の親指の爪の下辺りに、歪んだ“m”の字のように見える傷。そして中指の腹の部分には、赤黒く斜めに走る線のような傷。 丁寧に洗った二つの傷を新しい絆創膏で覆って、祈里は静かにため息をついた。 (健人君・・・やっぱり何か隠しているのかな。) 夕方、せつなが挙げた不審な点を、ひとつひとつ思い返す。考えれば考えるほど、彼女の指摘は的を射ているように思われた。 祈里は他の三人と違って、健人が警備員たちを引き連れて街を闊歩していた様子を見ていない。だから、その話をラブから聞いた時にはどうにもイメージが湧かなかったのだが、昼間、喫茶店で健人に会って、確かにその様子が普段と明らかに違うと感じた。 二度目のため息をついて、昨日みんなに見せたあの船上パーティーの招待状に、もう一度目をやる。 昨年の秋、健人に招待され、ドレスまでプレゼントされて、気乗りがしないまま仕方なく出かけた船上パーティー。慣れない華やかな場所でコチコチに緊張したものの、健人もやはり不安を抱えているのだと知って、祈里はようやく少し落ち着くことが出来た。 その後、ウエスターが船にソレワターセを憑依させたため、キュアパインに変身したのだが、健人はパインと動物たちと一緒に、必死で戦ってくれた。「みんなで力を合わせるんだ!」と動物たちに叫んだあの声は、今でもはっきりと覚えている。 (でも、今日の健人君は、力を合わせるっていうより、みんなの力を断って、一人で頑張ってるっていうか・・・何だかいつもの健人君じゃないみたいだった。あんな顔、今まで見たことあったかなぁ。) そう心の中で呟いた時、不意に何かが引っかかった。 (・・・今まで見たことあった・・・?まるでいつもの健人君じゃないみたい・・・?) 深く濁った水の底から何かがプカリと浮かび上がってくるような、そんな感覚。思わず目の前の封筒を、もう一度見つめる。 ――えっ?この封筒なら見たことがあるぞ。 昨日、この封筒をみんなに見せた時、隼人がそんなことを言っていなかったか? 確かにあの船上パーティーの時、ウエスターはその場に現れたが、それは船をソレワターセにするために、パーティーに潜り込んだのだと思っていた。だが、この封筒を見たことがあるということは、実はウエスターは、あの船上パーティーに正式に招待されていたのかもしれない。 でも――だとしたら、一体誰に? そして、今日の健人の、一瞬も自分たちと目を合わせようとしなかった、一見堂々としているのに、少しも落ち着きのなかった姿を思い出す。 まるで自分の周りに高い壁を作って、そこから抜け出せなくなっているような、あの姿――それは、ついこの間の自分の姿ではなかったか? 深い悲しみの底で、心が硬く冷たく閉ざされ、その悲しい現実だけでなく、誰の言葉も、誰の想いも受け取れなくなってしまった――何だか自分が自分じゃないみたいだった、あの時の気持ち。 (そう。まるで突然起こった不幸が、どんどん自分の内側に入り込んでくるみたいな・・・えっ?) あともう少し。もう少しのところに、何か答えのようなものがある気がする。 祈里は逸る気持ちを抑え、机の前に座った。スタンドを点け、ノートを広げてペンを手に持つ。何となく、こうやって腰を据えれば、何かが見つかるような気がしたから。 ナケワメーケのコアである黄色いダイヤを、ノーザに渡したウエスター。 そのウエスターが招待された、御子柴家の船上パーティー。 今頃になって現れた、黄色いダイヤを付けたナケワメーケ。 そのナケワメーケの残骸に触れて、不幸に陥った自分。 その時の自分と同じような雰囲気を持つ、御子柴家の一人息子・健人の様子――。 (・・・まさか、そんな!) 祈里は愕然とした表情で、ポロリとペンを取り落した。 あまりにも突拍子もない考えだと思う。でも、それならつじつまが合うんじゃないか、という気もした。いずれにせよ、少しでも可能性があるなら、確かめないわけにはいかないだろう。 壁にかかった時計を見る。もう早いとは言えない時間だが、まだ寝てはいないかな、と思えるくらいの時間――。 祈里は少しためらってから、意を決したように、リンクルンに手を伸ばした。 イエローハートの証明 ( 第8話:御子柴邸へ! ) その電話がかかって来た時、せつなはパジャマ姿で、自分の部屋のベッドにラブと並んで腰かけ、とりとめのない話をしているところだった。 せつながこの部屋で暮らしていた頃は、ベランダで、あるいはどちらかの部屋で、よくこうやって肩を並べて他愛もないおしゃべりに興じたものだ。その時は、部屋で話すときは大抵ラブの部屋でだったのだが、今回の帰省中は、ラブがせつなの部屋にやって来ることの方が多かった。 突然鳴り出したリンクルンに黄色い光が点滅するのを見て、せつなが少し心配そうに眉をひそめる。 こんな時間に、祈里から電話とは珍しい。何か悪い知らせでなければ良いが・・・そう思いながら電話に出ると、普段より硬い祈里の声が耳に飛び込んできた。 「もしもし、せつなちゃん?ごめんね。こんな時間に悪いんだけど、隼人さんと連絡取れないかな。」 「一体どしたの?」 電話の向こうで、祈里が、あのね・・・と言って口ごもる。 「ちょっと気になることがあって・・・。何か証拠があるわけじゃないし、ただの思い過ごしかもしれないんだけど。」 「ちょっと待って。ここにラブもいるから、二人で一緒に聞いてもいい?」 せつながそう言って、リンクルンをラブに渡す。耳の良いせつなは、こんな肩が触れ合うような距離なら、隣りにいるラブの受話器から漏れる祈里の言葉を聞き取るくらい、わけはない。 ラブも心得たもので、うん、と真剣な顔で頷くと、リンクルンを挟んで頬と頬とがくっつきそうなくらい、せつなの方ににじり寄って来た。 あまりの近さに、せつなが少し顔を赤らめてから、それでもラブとの距離はそのままに、じっと耳をそばだてる。 「いいよ、ブッキー。話して。」 ラブの声を合図に、祈里は考え考え、話し始めた。 「あのね。昨日みんなに招待状を見せた、去年の秋の船上パーティーなんだけど・・・。あの時、隼人さんがパーティーに招待されていたのか、もしそうだとしたら、誰に招待されたのか、それが訊きたいの。」 電話の向こうが、一瞬、しんと静まってから、再びラブの声がした。 「でもさぁ、ブッキー。あの時、隼人・・・ウエスターは、船をソレワターセにしたでしょう?招待されたんじゃなくて、船に忍び込んだんじゃないのかなぁ。」 「わたしも最初はそう思っていたんだけど、隼人さん、昨日、あの招待状を見たことがあるって言ってたでしょ?忍び込んだんなら、招待状なんて見てないはずよ。ということは、やっぱり正式に船に乗ったんじゃないかと思うの。」 「うーん・・・でも、ウエスターって御子柴家と何か関わりがあったの?何もないのに招待されるなんて、ヘンだよね。」 「ううん、もしかしたら、ヘンじゃないのかもしれないわ。」 ふいに、ラブの声の向こうから、低くて小さな声が聞こえた。ゴソゴソという音の後に、電話の主がせつなに替わる。 「ブッキー。ひょっとして、ウエスターが船上パーティーに招待されたのは、何かの代償だったんじゃないか――そう思ってるんじゃない?」 「だいしょう?」 今度はラブの声が遠い。せつなが、ラブと祈里、両方に話しているような調子で言葉を繋ぐ。 「見返り、っていうことよ。あの頃のラビリンスでは、それが当たり前だった。何かを手に入れるためには、引き換えに、必ず何か代償が必要だったの。 そして、船上パーティーの招待状と引き換えに渡されたのが・・・」 「ええ。ひょっとして、あのダイヤは御子柴家の誰かに渡されたんじゃないかって・・・そう、思ってしまったものだから。」 えーっ!?というラブの叫び声が、電話口から離れているのに、耳に痛いようなボリュームで聞こえた。 ☆ すぐに隼人に連絡を取ることにして、祈里との電話を一旦切る。そして、せつなは机の引き出しの中から、携帯電話によく似た小さな機械を取り出した。 異空間通信機。ここへ帰って来る前にサウラーに渡されたもので、同じものを隼人も瞬も持っている。ラビリンスと四つ葉町という異世界間でも通話ができる、ラビリンスの超科学の結晶。それは同じ世界に居る同士の場合でも、勿論通話が可能だった。 隼人の番号を呼び出してコールするが、電源が切られているとのメッセージが流れる。不審に思いながら瞬にかけてみると、今度はワンコールで、押し殺したような低い声が聞こえた。 「やぁ、どうしたんだい?」 「ちょっと隼人に訊きたいことがあるんだけど、通信機の電源が入っていないみたいなの。瞬、あなた今、隼人と一緒?」 せつなの問いに、電話の相手が軽いため息をついたのが聞こえた。 「一緒に居ることは居るけどね、彼は今、電話には出られないよ。ちょっと取り込んでいてね。」 「取り込んでるって、こんな時間に一体何を・・・」 そう言いかけて、せつなが不意に押し黙る。電話の向こうからかすかに聞こえた、ある音が気になったのだ。 「ねぇ、瞬。あなた今、どこにいるの?」 「どこって、四つ葉町公園に決まってるだろ。」 「本当に?今、何かおかしな雑音が聞こえたみたいだったけど。」 「ああ、隼人が今、こんな時間からドーナツを揚げていてね、その油の音だろう。取り込んでいるっていうのは、そのことだよ。全く、こんな時間からいい迷惑だ。」 瞬の声には少しの揺らぎもなく、平静そのものだ。 せつなは、そう、と低い声で呟くと、じゃあ明日の朝かけ直す、と早口で瞬に言った。 あっさりと電話を切ったせつなに、ラブが心配そうに問いかける。 「隼人さんとは、話が出来なかったの?瞬さん、何だって?」 「ラブ・・・。あの二人は、どうやらもう二人だけでどこかに向かっているようだわ。きっと健人君の家よ。」 せつなの、一見淡々とした――しかし深い悲しみに満ちた声音に、ラブは息を呑んで彼女を見つめた。 ☆ 「電話、イースからだったのか?」 「ああ。幸か不幸か、君が通信機の電源を切っていたせいでね。」 瞬――いや、今は白い闘衣に身を包んだサウラーの、少し恨みがましい口調に、ウエスターは前を向いたまま、すまん、と呟いた。 「まあ、それはいいさ。しかしマズい時にかかって来たな。彼女のことだ、もう僕らの行動には、きっと気が付いているよ。」 「お前が上手く話してくれたんじゃないのか。」 「そのつもりだったんだが・・・さっき、閉店しようとしている飲食店の前を通ったろ?あれが失敗だった。」 せつなの耳が捉えたのは、四つ葉町で一番遅くまで開いているレストランのシャッターが閉まる音だったのだ。確かに公園に居ては、この音はまず耳に入らない。 咄嗟に、せつなにとっても馴染みが無いであろう音を引き合いに出したのだが、あれでごまかされる彼女ではないはずだ。 そう。二人はせつなが睨んだ通り、いつもの公園に居るわけでは無かった。既に人気のなくなった四つ葉町商店街を、御子柴邸に向かってひた走っていたのである。 「全く。君が彼女たちに黙って一人で決着をつけようなんて、らしくないことをするからだよ。」 「仕方ないだろう?今回のことは、まだ分からないことが多すぎる。これからどんな危険が待っているか知れないんだ。そんなことに、今はもう普通の少女の力しか持っていないあいつらを、巻き込みわけにはいかないじゃないか。それに・・・これは元々、俺が撒いた種だ。」 ウエスターが、真っ直ぐ前を向いたまま、低い声で言う。 ノーザに渡したダイヤのことをすっかり忘れていたのは、あのダイヤが既に使われたものと思い込んでいたためだった。世界中のおもちゃが子供たちの手から消えた、と聞いた時、ノーザさんはやっぱりやることがデカいと、密かに感心したのを覚えている。 だが、昨日あの招待状を見たとき、かつてノーザから同じものを手渡されたことを思い出して、ウエスターは――隼人は微かな疑念を抱いた。 「ウエスター君。人質作戦って言葉、あなた知ってるかしら・・・。」 そう言って楽しそうな笑みを浮かべながら、ノーザがあの封筒と、新しいソレワターセの実とを差し出してきたあの日――あれはウエスターがノーザのために黄色いダイヤを召喚した、ほんの少し後のことだったのだ。 ひょっとして、あのダイヤは使われずに残っているんじゃないか――その疑念を、カオルちゃんに背中を押されて確かめてみると、やはりダイヤは使われていないことが分かった。 (あの封筒がダイヤの代償だったのだとしたら、ダイヤはまだこの世界・・・おそらく御子柴家に――。) どうして今まで気付かなかったのだろう。自分のうかつさにまた腹が立って来て、ウエスターはグッと奥歯を噛みしめる。そして、隣りを走る白い影に、ちらりと目をやった。 「お前も付いて来なくていいんだぞ、サウラー。」 「ほぉ。これまた、いつも仲間仲間ってうるさい君らしくない発言だね。」 「言っただろう。今回のことは、俺の・・・」 「君だけの責任じゃないさ。僕だって、近くに居たのにそんなことにまるで気付かなかったんだからね。」 独り言のような低い声でそう言ってから、サウラーが我に返ったように、わざとらしく肩をすくめる。 「心配しなくても、僕は僕の興味で向かっているだけだよ。僕の探索にも引っかからない方法で、あのダイヤがどうやって保管されていたのか、見てみたくてね。」 そう言ってニヤリと笑う仲間の顔から、ウエスターはぷいと顔をそむけた。 「勝手にしろ。イースたちが来る前に終わらせるぞ。」 「ああ、そう願いたいね。」 あの屋敷に何が待っていようとも、ダイヤを見つけ出して処分する。もう二度と、この世界に不幸をばらまくことが無いように――。 二人の走るスピードが、ぐんと上がる。この長い通りを抜ければ、住宅街。御子柴邸は、その一番奥まったところにあった。 ☆ せつなの話を聞いて、ラブはすっくと立ち上がった。 「行こう、せつな。すぐにブッキーに電話して。あたしは美希に・・・」 「ちょっと待って、ラブ。行くって、御子柴家へ?」 慌てて制するせつなに、力強く頷くラブ。 「でも・・・あの二人はきっと、御子柴家にこっそり忍び込んでダイヤを探すつもりよ?今の私たちに、あの二人についていく力なんて無いわ。」 「分かってる。それでも、二人だけで行かせるわけにはいかないよ!」 きっぱりとそう言い切ってから、ラブは表情を和らげて、せつなの顔を覗き込んだ。 「ねえ、せつな。確かにあたしたちは、隼人さんたちと同じことは出来ないよ。でも、隼人さんたちには無理でも、あたしたちだから出来ることだって、あるじゃない。」 「私たちだから・・・出来ること?」 不思議そうに小首を傾げるせつなに、ラブはニコリと笑って、今度は優しく頷いた。 「健人君と隼人さんたちは、お互いのことをよく知らないよね。でもあたしたちは、健人君とも、隼人さんや瞬さんとも友達でしょ?だから、あたしたちが一緒に居た方が、みんな話がしやすいはずだよ!」 こんな夜遅くに押しかけて、話し合いも何もないんじゃ・・・と言いかけて、せつなは口をつぐむ。 ラブが言っているのは、そういうことではないのだろう。 友達同士を争わせたくない。その場に居て、両方が幸せな結末となるように、少しでも力になりたい――ラブの想いは、きっとそういうことだ。 自分だって、健人の様子がおかしいのは気になるし、何より隼人と瞬の二人が心配だ。確かに二人とも、この世界の人間が及びもつかないような力を持っているけれど、その力に任せて御子柴家に忍び込み、ナケワメーケのコアとなるダイヤを排除する――今回の事件がそれだけで済む単純なものとは、せつなにはどうも思えないのだ。 とはいえ、ここでみんなが乗り込めば、今度はみんなが危険な目に遭うおそれが、十分にある。 せつなは、上目づかいにラブの顔を見て、おずおずと言った。 「ねえ、ラブ。仲裁役っていうだけなら、何も四人で行かなくても・・・」 「せつな、忘れたの?あたしたちは、いつだって四人。四人一緒なら、出来ないことなんて無いよ!それに、健人君も、隼人さんと瞬さんも、あたしたちみ~んなの友達でしょ?」 ラブが、一言一言を噛みしめるようにそう言って、もう一度せつなの顔を覗き込む。 その目は、強くてあたたかな光をいっぱいに湛えていた。かつては受け止めることも、真っ直ぐに見ることすらも出来なかった光――そして、これまでどんな時もせつなを励まし、導いてくれた光。 (ラブは変わらないわね。あの頃から、少しも。) かつてのように目をそらすことなく、真っ直ぐに、愛おしそうにラブの顔を見つめて、せつなは少し照れ臭そうな笑顔で、しっかりと頷いた。 「・・・分かったわ。みんなで、行きましょう。」 ☆ 洋服に着替え、二人で一階に下りる。リビングのドアの隙間からはまだ明かりが漏れていて、テレビの音と、あゆみと圭太郎の話し声がかすかに聞こえていた。 ひとつ大きく深呼吸してから、ラブがドアを開ける。 「お父さん、お母さん。」 「あら、ラブ、せっちゃん。どうしたの?こんな時間に。」 あゆみが台所から出てきて、驚いた顔で二人の姿を見つめる。二人の真剣な顔つきを見て、圭太郎もテレビを消してこちらにやって来た。 「あたしたち、これから行かなくちゃいけないところがあるの。帰りは凄く遅い時間になっちゃうと思うけど・・・でも、どうしても行かなきゃいけないの。だから、行ってきます!」 「ちょっと待ちなさい、ラブ。一体どこへ行くって言うのよ。」 「それは・・・」 口籠もるラブの後を、せつなが引き取る。 「ごめんなさい、今は言えないの。でも、そんなに遠くじゃないから心配しないで。」 「どうしても、今行きたいのか?もう夜も遅いし、明日の朝になってからの方が・・・」 「ごめんなさい。今じゃなきゃダメなの。」 心配そうに二人の顔を見比べる圭太郎に、今度はラブが頭を下げる。 あゆみは、圭太郎とそっと顔を見合わせ、小さくため息をついてから、改めて二人の娘たちに向き直った。 「どこに行くのか、何をするのか。それは、今は言えないって言うのね?分かったわ。じゃあ、二人がこれから何のために出かけるのか、それを教えてちょうだい。」 「何の・・・ために?」 ラブがきょとんとしてオウム返しに呟き、せつなは不安そうな眼差しであゆみを見つめる。 あゆみは、ええ、と頷くと、いつになく真剣な声音で言葉を続けた。 「二人とも、こんな夜遅くから出かけて親に心配かけると思ったから、こうして言いに来たんでしょう?だったら、わたしたちがあなたたちを信じて送り出せるように、言えることは、ちゃんと言いなさい。 何のために行きたいのか――そしてどうしたいのか。親として、それだけは聞かせてもらいます。」 きっぱりとそう言い切って、あゆみは二人の答えを待つ。 圭太郎は、娘たちを静かに見つめたまま、そんなあゆみの肩に、そっと手を置いた。 「それは、健・・・えーっと、友達のためだよ!あたしたち、今すぐ友達を助けに行きたいの。ねっ、せつな。」 「ええ。私、そのために精一杯頑張るわ!」 ラブが叫ぶように答え、せつなが力強く頷く。 だが、あゆみはそれを聞いて、一瞬だけ心配そうに眉をひそめた。そしてすぐに真剣な表情に戻って、さらに畳みかける。 「そう、友達のため・・・。それだけなの?」 「えっ?」 ラブとせつなが、揃って声を上げる。 「お母さん、何言ってるの?それだけじゃ、いけないの?」 ラブが、驚きと不満が入り交じった表情で、あゆみに詰め寄った。が、あゆみは少しも動じない。 「こんな遅い時間から、わざわざパジャマを洋服に着替えて、お母さんにお小言を貰って・・・。それでも友達のためだから仕方が無い、我慢して行かなきゃって、そう思ってるっていうこと?」 「ちょっとお母さん!そんな意地悪な言い方しなくたっていいじゃん!」 ラブが、なおもあゆみに詰め寄ろうとした、その時。 「いいえ、我慢なんかじゃないわ。」 低く、柔らかく、でも凛として揺るぎのない声が、リビングに響いた。 せつなが、真っ直ぐにあゆみを見つめてから、そっと目を閉じる。少しの間そうしてから、ゆっくりと言葉を押し出した。 「私たちが・・・私が、みんなと一緒に友達を助けたいの。一人で抱え込んだり、無理して頑張ったりしている友達のそばに行って、一人じゃないって、そう伝えたいの。それは私たちにしか出来ないし、私がやりたいことだから。」 そう言って静かに目を開けたせつなは、あゆみを見つめて声を震わせながら、それでもはっきりと言った。 「だから――行かせて、お母さん。」 今、やっと分かった。ウエスターとサウラーが、過ちの精算のために二人だけで御子柴邸へ向かったと知った時、なぜあんなに悲しいと思ったのか。 彼らの気持ちは、手に取るように理解できたはずだった。自分が蒔いてしまった不幸の種は、自分で刈り取らなければ、という想い。たとえ自分はどうなっても、仲間を巻き込みたくない、という願い。その気持ちは、あの時、一人で不幸のゲージを壊しに行ったときの自分の気持ちそのものだったからだ。 それなのに、今は二人の決意を知って、言いようのない悲しみを覚える。 仲間だなんて少しも思っていなかった、出し抜くべき同僚としての出会いも、プリキュアとラビリンスとして激しく敵対した過去も、関係ない。いや、そんな過去があってやっと仲間になれた彼らだからこそ、ラブや美希や祈里と同じように、一緒に笑っていたい――その想いが、心に強く湧き上がってくる。それが、自分の幸せな未来だと思える。 (みんなも――ラブや美希やブッキーも、あの時、こんな気持ちでいてくれたのかしら・・・。) 目を瞑ると、底抜けに明るくあたたかな、ラブの笑顔が浮かんだ。悪戯っぽくパチリとウィンクしている美希。おっとりと優しい口調で話す祈里。 四つ葉町を離れてから、何度も何度も脳裏に思い描いた、仲間たちの姿――。 こういう時、決まって自分の姿はそこには無い。自分は自分の目には映らないのだから、それが当然だ、とずっと思っていた。 でも、今は何だかいつもと少し違った。相変わらず自分の姿は見えないけれど、仲間たちがとても近くに感じられる。全員が、せつなにあたたかな笑顔を向け、楽しそうにウィンクしてみせ、嬉しそうに話しかけてくる。 おまけに、せつなに向かって得意げにドーナツを差し出すウエスターと、そんな彼に肩をすくめてから、せつなにニヤリと笑いかけるサウラーの姿まで浮かんできた。 (そう・・・。今まで私は、みんなの未来は描けても、そこに自分の姿を描けていなかったのね。) 健人やウエスターやサウラーを助けたいのは、彼らみんなと笑い合える、そんな未来を作りたいから。そういう未来に、自分も居たいから。 そして、その未来に自分が居ることが、仲間たちの幸せでもあるんだって、今はっきり、そう信じられた。 あゆみが、せつなの顔を見つめて、やっと表情を緩める。 優しさに満ちた、そして、心配そうな表情になるのを必死で抑えているような、そんな笑顔で、あゆみはせつなに頷いて見せた。 「行きなさい、せっちゃん。お父さんもお母さんも、ここで精一杯応援してるわ。」 「お母さん・・・ありがとう!」 涙声でやっとそれだけ言うせつなを、あゆみがしっかりと抱き締める。そして、同じように潤んだ瞳でせつなを見つめるラブを、もう片方の手で抱き寄せた。 「ラブも、しっかりね。お友達を助けて、必ずみんなで帰ってらっしゃい。」 「うん、任せといて!」 ラブは、あゆみの腕の中で、明るく声を張り上げる。 「二人とも、気を付けて行くんだぞ。」 圭太郎があゆみの後ろから、右手をラブの、左手をせつなの肩に置いて、深く静かな声で言った。 「はい!!」 娘たちが声を揃えて返事をするのを聞いて、あゆみと圭太郎がそっと手を離す。 きりりと表情を引き締め、外に飛び出す二人の後ろ姿を、父と母は、祈りを込めて見守った。 ☆ 表通りに出てみると、商店街はもうどの店もシャッターを下ろしていた。闇に慣れない目に、夜の街がなお一層ガランと寂しげに感じられる。 「せつな、こっち!」 「ええ、わかってる!」 ささやき合いながら、住宅街の方に向かって駆け出そうとする二人。と、その時、不意に横合いから、一筋の眩しい光の線が走った。続いて光を追うようにして、大きな影が現れ、二人の行く手を遮る。 色まではよく分からないが、見慣れた形の大きな車。そして、その窓から二人に手を振っていたのは――。 「美希たん!ブッキー!それに・・・カオルちゃん!」 思わず叫んだラブに、車の中の三人が揃って人差し指を唇に当てた。 いつもはドーナツ・スタンドになっているはずの後部座席に座った祈里がドアを開け、カオルちゃんが運転席からこちらを振り返る。 「乗りな、お嬢ちゃんたち。」 「カオルちゃん、ありがとう!でも・・・どうして?」 「話は後。急いでるんだろ?」 「はい。助かります!」 ラブとせつなが急いで祈里の隣りに乗り込む。美希と祈里も、ラブとせつなから電話をもらって駆け出したところで、車に乗せてもらったらしい。 カオルちゃんは、夜なのに相変わらずのサングラスを押し上げ、いつもののんびりとした口調で言った。 「それじゃ、ちょーっと飛ばすから、しっかり捕まっててね~。」 次の瞬間、夜の四つ葉町商店街を、音速のドーナツ・ワゴンが駆け抜けた――。 ☆ その頃、御子柴邸では、健人が屋敷の長い廊下を歩いていた。思い詰めたような、何か意を決したような、そんな顔つきだ。 普段はほとんど使われない、裏庭へと通じるドアを開け、人目を気にしながら外に出る。 小さな星が夜空に瞬いて、そんな健人を見下ろしている。が、健人は懐中電灯の淡い光を頼りに足元ばかりを気にしながら、ただ一人、ある場所を目指して進んでいた。 ~第8話・終~ 地下に眠るものへ
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(これでよし、と…。) 祈里は慎重にゼリーを型から外し、器に盛り付ける。 硝子の器には直径5センチ程の色とりどりの球形のゼリーが並んでいる。 いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい見た目と裏腹に、 中身は殆んどが高アルコール度数のテキーラ。ネットで偶然レシピを見付けた。 度数の高いお酒に濃く甘い味を付けて、球形の氷を作る型に入れて、固める。 見た目の可愛らしさに騙されて口にすると…アルコールに慣れていない人は 数個でメロメロに酔い潰れて、ちょっとやそっとの刺激では目も覚めない、らしい。 一部では有名な大人のナンパアイテムだそうだ。 もうすぐせつなが家にやって来る。ひとりで。 少しくらいおかしい、と感じても生真面目なせつなの事だ。 手作りだと言えば残さず食べてくれるだろう。 (ごめんね。) 自分のしようとしてる事。とても現実とは思えない。 良心の呵責と罪悪感。でもそれ以上にゾクゾクするような興奮と高揚感。 でもこうでもしないと、あの人を手に入れる事はできない。 心は、とうに諦めた。だから、せめて体だけでも。どんな卑怯な手を使ってでも。 例えそれが、取り返しのつかないほどの傷を伴うものでも。 「お邪魔します。」 せつなちゃんは相変わらず堅苦しいくらい礼儀正しい。 玄関でお母さんに挨拶したんだから、わたしの部屋に入る時までいいのに。 「今日もラブちゃんは補習なの?」 「そうなの。小テストの結果が悪かったんですって。でもラブったら、 勉強嫌いなのにわざわざ勉強の時間増やすような事するの、どして?」 どうやら、一度で合格すれば余計な時間を使わずにすむのに、そうしないのが 不思議らしい。 皮肉ではなく本当にそう思ってるらしい表情に、少しラブちゃんに同情する。 そううまく行くもんじゃないのよ、せつなちゃん。 暫し他愛ないお喋りに興じる。しかし内心は気もそぞろだ。 「そうだ、おやつ食べない?初めて作ったヤツだから味の保証は出来ないけど。」 何気無いふうを装い、例のゼリーをせつなちゃんの前に置く。 不自然にならないように自分の前にも同じ物を。 ただし、わたしのは本当にただのゼリーだけど。 「これなあに?すごく綺麗ね。」 警戒心のない笑顔で問い掛けられ、少し胸の奥がチクっとする。 「えっとね、少しお酒の入ったゼリーなの。ちょっぴり大人の味?」 「へぇ、ブッキーは何でも器用に出来てすごいわね。」 一つ、スプーンで掬って口に運ぶ。少し、せつなちゃんは驚いた顔をする。 「んっ…、結構、お酒効いてるわね。」 そりゃあ、そうよ。殆んどテキーラなんだもん。 「ホント?ごめんなさい。苦手だったら残してね?」 「平気よ。ちょっとびっくりしただけ。すごく美味しい。」 せつなちゃんは続けて口に運ぶ。 こういう言い方をすれば、彼女は断れない。それを分かってて言うんだから、 ずるいな、わたし。 わたし達はお喋りしながらゆっくり食べる。わたしはもう食べ終わった。 せつなちゃんの器には、後一つと半分。 せつなちゃんの顔を見ると眼が熱っぽく潤み、頬が紅潮している。 会話の受け答えが緩慢になり、かみあわない。 かなり、効いてるみたいだ。 「せつなちゃん、まだ残ってるよ。」 食べさせあげる。そう言ってわたしはスプーンで残りを口に運ぶ。 「あーん、して。」 彼女は虚ろな眼で、素直に口を開く。つるり、とゼリーが滑り込む。 開いた唇から白い歯と、奥にピンクの舌がチラリと見えた。 それがなぜかすごくイヤらしく感じてイケナイものを見てしまったような気分になる。 程なく彼女はわたしのベッドにもたれるようにして、うとうとと船を漕ぎだす。 寝るなら、ちゃんと横にならなきゃ…彼女を気遣う素振りで手を貸し、 そっとベッドに横たえる。 もう、そんなわたしの声も届いていないようだ。 ベッドの感触に安心したのか、すぐに規則的な寝息が聞こえ始める。 それから五分、十分…聞こえるのは彼女の寝息と時計の音。 そして、外に聞こえてしまいそうなくらいの自分の鼓動。 肩を揺すり声をかける。 「……せつな…ちゃん…?」 軽く頬を叩いてみても全く反応しない。 眼が、自然と規則正しい寝息を立てる唇に吸い寄せられる。 (…おいしそう……) ペロリ、と唇を嘗め、ちゅっと音を立てて吸い付く。甘いゼリーの味。 鼻をアルコールの匂いが掠め、自分まで酔ったような気分になる。 制服のネクタイをほどき、シャツのボタンを外して行く。 白い肌が露になり、年に似合わぬ豊かな胸が現れる。 背中に手を回し、ブラのホックを外す。 無理に手を差し込んだせいで、せつなは身動ぎ、軽く呻いて寝返りをうつ。 その隙に半袖シャツの腕からブラの肩紐を外し、ブラを完全に脱がせる。 (綺麗……) 再びせつなを仰向けにして、ゆっくりと乳房を手のひらで包み込む。 柔らかい、それなのに力を入れると指が押し返されそうな弾力のある感触に 祈里は陶然とする。 (気持ちいい……せつなちゃんの胸。) 最初は乳房を撫で回すように、次第に力を加えゆっくりと揉みしだく。 先端が徐々に尖り、ぷつりと手のひらに当たる。 「……ん…んん…、ふぅ…」 吐息に微かに声が混じる。乳首が擦れる度、息が上がってくる。 (殆んど意識ないはずなのに…。) 明らかに感じてるらしい反応に祈里の愛撫が大胆になってくる。 可愛い桃色の乳首は摘まんで捏ねると、だんだん色づき弾けそうなくらい 張り詰めてくる。 唇で挟み、舌でくすぐり、軽く甘噛みする。 「んあ…、はぁっ…あっ…んっ…んぅ…」 祈里の舌が、指が動く度にせつなは切な気な吐息を漏らし、身を捩る。 (…本当に、眠ってるの…?) 反応の良さについ、そんな事を考えてしまう。 でも意識があったら抵抗しないはずないのに。 胸元に顔を埋めたまま、そろそろと太ももを撫で、下着に手を潜りこませる。 秘裂を指でなぞると、そこはもう、蕩けるように熱い。 中指が軽い抵抗を受けながら呑み込まれる。 待ち兼ねたように蜜が溢れ、肉が絡み付いてくる。 くちゅくちゅと卑猥な音を立てて熱く狭い肉の中を探る。 こんなにされても起きないのか…、胸元から顔を上げ、せつなの様子を窺う。 せつなはきつく眼を閉じたまま微かに眉を寄せ、下腹部の感覚に集中している… ように見える。 指を入れたまま、性器の上にある突起を摘まんでみる。 せつなの体がビクンと跳ね、中がきゅうっと締まる。 「…あっ、あっ、あっ…はっ…あんっ…ああっ」 小刻みに体が震え、ひときわ声が高くなってくる。 普段の低く、落ち着いた声とは違う、鼻に掛かった甘えた声音。 確かに同じ声のはずなのに。 ビクッと大きくせつなの体が震え、力が抜ける。 (もしかして、イッちゃった…?) 荒い息遣いで胸を喘がせているせつなに口付ける。少し迷って 軽く舌でせつなの歯を抉じ開ける。 せつなの方から舌を絡めてくる。それに応えるよう、強く祈里も舌を絡める。 ただただ、嬉しかった。自分の拙い愛撫でせつなが達し、口付けに応えてくれる。 「……ラ…ブ、んんっ…ラブぅ…」 心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。思わず体が強張る。 せつなはそんな事にも気付かない風に、祈里の背中に腕を回し 愛し気に抱き締める。 (…なんだ…、ラブちゃんと間違えてるんだ。) 道理で抵抗しないわけだ。愛しい恋人の愛撫なら、逆らう理由なんてない。 せつながうっすらと眼を開けそうになる。祈里は慌てて、手のひらで せつなの瞼を覆う。 「……せつな…可愛い。大好き…」 そう、耳元で囁く。 「いい子ね…、お休み……。」 せつなは安心したかのように、また静かな寝息をたて始める。 (これから……どうしようか……?) 祈里はせつなが目を覚ました後の反応を想像する。 自分を抱いていたのがラブではなかったと分かったら……。 信頼していたはずの親友が、自分を騙して犯したのだと知ったら。 (…このくらいで、壊れたりしないよね?せつなちゃんは強いもの。) 祈里は椅子に腰掛け、せつなを見下ろす。 わざと着衣は乱したままにしておく。 (…早く、起きないかな…。) 祈里はゆっくりと微笑みを浮かべる。これからの事を思い浮かべながら。 黒ブキ11へ続く
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(これでよし、と…。) 祈里は慎重にゼリーを型から外し、器に盛り付ける。 硝子の器には直径5センチ程の色とりどりの球形のゼリーが並んでいる。 いかにも女の子が喜びそうな可愛らしい見た目と裏腹に、 中身は殆んどが高アルコール度数のテキーラ。ネットで偶然レシピを見付けた。 度数の高いお酒に濃く甘い味を付けて、球形の氷を作る型に入れて、固める。 見た目の可愛らしさに騙されて口にすると…アルコールに慣れていない人は 数個でメロメロに酔い潰れて、ちょっとやそっとの刺激では目も覚めない、らしい。 一部では有名な大人のナンパアイテムだそうだ。 もうすぐせつなが家にやって来る。ひとりで。 少しくらいおかしい、と感じても生真面目なせつなの事だ。 手作りだと言えば残さず食べてくれるだろう。 (ごめんね。) 自分のしようとしてる事。とても現実とは思えない。 良心の呵責と罪悪感。でもそれ以上にゾクゾクするような興奮と高揚感。 でもこうでもしないと、あの人を手に入れる事はできない。 心は、とうに諦めた。だから、せめて体だけでも。どんな卑怯な手を使ってでも。 例えそれが、取り返しのつかないほどの傷を伴うものでも。 「お邪魔します。」 せつなちゃんは相変わらず堅苦しいくらい礼儀正しい。 玄関でお母さんに挨拶したんだから、わたしの部屋に入る時までいいのに。 「今日もラブちゃんは補習なの?」 「そうなの。小テストの結果が悪かったんですって。でもラブったら、 勉強嫌いなのにわざわざ勉強の時間増やすような事するの、どして?」 どうやら、一度で合格すれば余計な時間を使わずにすむのに、そうしないのが 不思議らしい。 皮肉ではなく本当にそう思ってるらしい表情に、少しラブちゃんに同情する。 そううまく行くもんじゃないのよ、せつなちゃん。 暫し他愛ないお喋りに興じる。しかし内心は気もそぞろだ。 「そうだ、おやつ食べない?初めて作ったヤツだから味の保証は出来ないけど。」 何気無いふうを装い、例のゼリーをせつなちゃんの前に置く。 不自然にならないように自分の前にも同じ物を。 ただし、わたしのは本当にただのゼリーだけど。 「これなあに?すごく綺麗ね。」 警戒心のない笑顔で問い掛けられ、少し胸の奥がチクっとする。 「えっとね、少しお酒の入ったゼリーなの。ちょっぴり大人の味?」 「へぇ、ブッキーは何でも器用に出来てすごいわね。」 一つ、スプーンで掬って口に運ぶ。少し、せつなちゃんは驚いた顔をする。 「んっ…、結構、お酒効いてるわね。」 そりゃあ、そうよ。殆んどテキーラなんだもん。 「ホント?ごめんなさい。苦手だったら残してね?」 「平気よ。ちょっとびっくりしただけ。すごく美味しい。」 せつなちゃんは続けて口に運ぶ。 こういう言い方をすれば、彼女は断れない。それを分かってて言うんだから、 ずるいな、わたし。 わたし達はお喋りしながらゆっくり食べる。わたしはもう食べ終わった。 せつなちゃんの器には、後一つと半分。 せつなちゃんの顔を見ると眼が熱っぽく潤み、頬が紅潮している。 会話の受け答えが緩慢になり、かみあわない。 かなり、効いてるみたいだ。 「せつなちゃん、まだ残ってるよ。」 食べさせあげる。そう言ってわたしはスプーンで残りを口に運ぶ。 「あーん、して。」 彼女は虚ろな眼で、素直に口を開く。つるり、とゼリーが滑り込む。 開いた唇から白い歯と、奥にピンクの舌がチラリと見えた。 それがなぜかすごくイヤらしく感じてイケナイものを見てしまったような気分になる。 程なく彼女はわたしのベッドにもたれるようにして、うとうとと船を漕ぎだす。 寝るなら、ちゃんと横にならなきゃ…彼女を気遣う素振りで手を貸し、 そっとベッドに横たえる。 もう、そんなわたしの声も届いていないようだ。 ベッドの感触に安心したのか、すぐに規則的な寝息が聞こえ始める。 それから五分、十分…聞こえるのは彼女の寝息と時計の音。 そして、外に聞こえてしまいそうなくらいの自分の鼓動。 肩を揺すり声をかける。 「……せつな…ちゃん…?」 軽く頬を叩いてみても全く反応しない。 眼が、自然と規則正しい寝息を立てる唇に吸い寄せられる。 (…おいしそう……) ペロリ、と唇を嘗め、ちゅっと音を立てて吸い付く。甘いゼリーの味。 鼻をアルコールの匂いが掠め、自分まで酔ったような気分になる。 制服のネクタイをほどき、シャツのボタンを外して行く。 白い肌が露になり、年に似合わぬ豊かな胸が現れる。 背中に手を回し、ブラのホックを外す。 無理に手を差し込んだせいで、せつなは身動ぎ、軽く呻いて寝返りをうつ。 その隙に半袖シャツの腕からブラの肩紐を外し、ブラを完全に脱がせる。 (綺麗……) 再びせつなを仰向けにして、ゆっくりと乳房を手のひらで包み込む。 柔らかい、それなのに力を入れると指が押し返されそうな弾力のある感触に 祈里は陶然とする。 (気持ちいい……せつなちゃんの胸。) 最初は乳房を撫で回すように、次第に力を加えゆっくりと揉みしだく。 先端が徐々に尖り、ぷつりと手のひらに当たる。 「……ん…んん…、ふぅ…」 吐息に微かに声が混じる。乳首が擦れる度、息が上がってくる。 (殆んど意識ないはずなのに…。) 明らかに感じてるらしい反応に祈里の愛撫が大胆になってくる。 可愛い桃色の乳首は摘まんで捏ねると、だんだん色づき弾けそうなくらい 張り詰めてくる。 唇で挟み、舌でくすぐり、軽く甘噛みする。 「んあ…、はぁっ…あっ…んっ…んぅ…」 祈里の舌が、指が動く度にせつなは切な気な吐息を漏らし、身を捩る。 (…本当に、眠ってるの…?) 反応の良さについ、そんな事を考えてしまう。 でも意識があったら抵抗しないはずないのに。 胸元に顔を埋めたまま、そろそろと太ももを撫で、下着に手を潜りこませる。 秘裂を指でなぞると、そこはもう、蕩けるように熱い。 中指が軽い抵抗を受けながら呑み込まれる。 待ち兼ねたように蜜が溢れ、肉が絡み付いてくる。 くちゅくちゅと卑猥な音を立てて熱く狭い肉の中を探る。 こんなにされても起きないのか…、胸元から顔を上げ、せつなの様子を窺う。 せつなはきつく眼を閉じたまま微かに眉を寄せ、下腹部の感覚に集中している… ように見える。 指を入れたまま、性器の上にある突起を摘まんでみる。 せつなの体がビクンと跳ね、中がきゅうっと締まる。 「…あっ、あっ、あっ…はっ…あんっ…ああっ」 小刻みに体が震え、ひときわ声が高くなってくる。 普段の低く、落ち着いた声とは違う、鼻に掛かった甘えた声音。 確かに同じ声のはずなのに。 ビクッと大きくせつなの体が震え、力が抜ける。 (もしかして、イッちゃった…?) 荒い息遣いで胸を喘がせているせつなに口付ける。少し迷って 軽く舌でせつなの歯を抉じ開ける。 せつなの方から舌を絡めてくる。それに応えるよう、強く祈里も舌を絡める。 ただただ、嬉しかった。自分の拙い愛撫でせつなが達し、口付けに応えてくれる。 「……ラ…ブ、んんっ…ラブぅ…」 心臓を冷たい手で鷲掴みにされた気がした。思わず体が強張る。 せつなはそんな事にも気付かない風に、祈里の背中に腕を回し 愛し気に抱き締める。 (…なんだ…、ラブちゃんと間違えてるんだ。) 道理で抵抗しないわけだ。愛しい恋人の愛撫なら、逆らう理由なんてない。 せつながうっすらと眼を開けそうになる。祈里は慌てて、手のひらで せつなの瞼を覆う。 「……せつな…可愛い。大好き…」 そう、耳元で囁く。 「いい子ね…、お休み……。」 せつなは安心したかのように、また静かな寝息をたて始める。 (これから……どうしようか……?) 祈里はせつなが目を覚ました後の反応を想像する。 自分を抱いていたのがラブではなかったと分かったら……。 信頼していたはずの親友が、自分を騙して犯したのだと知ったら。 (…このくらいで、壊れたりしないよね?せつなちゃんは強いもの。) 祈里は椅子に腰掛け、せつなを見下ろす。 わざと着衣は乱したままにしておく。 (…早く、起きないかな…。) 祈里はゆっくりと微笑みを浮かべる。これからの事を思い浮かべながら。 3-268へ続く
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【逝く夏とともに】/恵千果◆EeRc0idolE 夏休み最後の日曜日、せつなとラブは、美希とともに祈里の家にお呼ばれしていた。 「ヤッホー、ブッキー」 「お邪魔しまーす」 「ブッキー、こんにちは」 「いらっしゃい!」 笑顔の祈里が、元気いっぱいに出迎えた。 身につけているのは、彼女をいちばん美しく見せる色。 爽やかなライムグリーンのブラウスに、レースをあしらったクリームイエローのミニスカートを合わせていた。 その装いはまるで、駆け抜けようとしている夏を惜しむ花の精のような、そんな儚さをたたえている。 彼女は今日、みんなを精一杯もてなそうと張り切っていた。 昨日から父や母を手伝い、余念なく準備をしていたのだ。 みんな、喜んでくれるかな?ふふっ。 みんなの驚いた顔を思い浮かべると、自然と浮足立ってくる。 今にもはしゃぎ出しそうな祈里を見て、お客の3人は口々に言う。 「ブッキー、今日の服とっても可愛いね!」 「ほんとね」 「おめかしして、スキップまでしちゃって、何かいいことでもあった?」 「いやだなー、何にもないよ。ただ皆と楽しく過ごしたいだけだってば」 話しながら4人が辿り着いたのは、山吹家の裏庭。 その真ん中に鎮座しているのは、若草色の装置だ。それを初めて見たせつなには、ミニサイズの滑り台に見える。 「キャー!やったー!」 「おじ様の手作り、久しぶりね!」 その装置を見たラブと美希は、喜びの悲鳴をあげている。 わけがわからずポカンとしているせつなの背中を、祈里がそっと押した。 「せつなちゃん、こっちこっち」 促されるままに装置に近づく。 縦に割った竹を幾つか組み合わせ、傾斜をつけている。 一番下にはザルの乗ったバケツが置かれていた。 「これは……なあに?」 尋ねるせつなに、祈里はウインクを返した。 「見てて。始まるよ!」 竹の滑り台の一番高いところから、祈里の母・尚子が何か白いものを置いた。 水が白い塊を押し流していく。 いつの間にか箸と器を持ったラブと美希が、争うように奪い合う。 「アタシの勝ちぃ!」 「ズルイよ美希たん!」 「まあまあラブちゃん、まだまだ沢山流すわよ」 尚子が笑う。美希も、ラブも笑う。それを見て、せつなも笑った。 そんなせつなに箸と器を渡しながら、祈里が教えてくれる。 「流し素麺、っていうんだよ。子供の頃、夏になるとよくここでしてたの」 「お素麺を流しているだけなのに、何だかすごく楽しいのね」 微笑むせつなの視線の先には、素麺バトルを繰り広げるラブと美希の姿。 「また美希たん!もおおっ!あたしも食べたいのにー!」 「悔しかったら取ってみなさい」 「むー!次こそ負けないよ!トリャー!」 ラブの箸先が素麺を捕らえようとした瞬間、真っ赤な塗り箸につかまれた素麺が宙を舞った。 「わたしの勝ちね」 口の端だけを引き上げて笑うせつなに、その場の者たちは気圧されたように静まり返る。 一瞬見せた婀娜っぽい微笑は、どことなく銀髪だった頃の面影にも似て。 「ず、ズルイよせつなー!!」 ラブの叫びなどものともせず、せつなは素麺をもぐもぐと頬張ると、ニッコリと微笑んだ。 「おいし!」 そこからは、皆で笑いながら沢山食べた。 ラブと美希は子供の頃と同じ笑顔で、せつなは心から楽しそうに。 祈里は感謝した。皆でこうして楽しい時を過ごせることに……このありふれた幸せに。 ――――ありがとう。
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第5話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーで遊園地――』 たくさんの人が波を作る。 波は大きな流れとなって人々を誘う。 大勢の人が同じ目的で列を成して歩く。ラビリンスでは馴染んだ光景。 違うのは表情。そして、繋がり。 家族、友達、恋人同士。 笑顔と興奮と感動。 そこにある――幸せ。 「どうしたの、せつな。驚いちゃった? 休日の遊園地だもの、このくらい当然よ」 「もし、調子悪いなら言ってね。色々お薬もあるから」 「ごめんなさい、平気よ。みんな楽しそうね」 心配そうな美希とブッキーに笑顔を返す。せつなにとって初めての遊園地だった。 「お待たせ! チケット買ってきたよ。今日は一日フリーパスなんだから」 「そうこなくっちゃ!」 「うん、楽しみ!」 「私もたくさん乗ってみたいわ」 せつなは期待に胸を膨らませる。それは、幾度か経験のあるラブたちも同じ。 せつなと乗れる。せつなと遊べる。新鮮な喜びを分かち合える。それが何より楽しみだった。 入場門をくぐる。 一歩先はおとぎの国。人を楽しませるためだけに存在する空間。幸せの集う場所。 「さあ、行こう!」 ラブにつられるように、四人はいっせいに駆け出した。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。クローバーで遊園地――』 「私、あれに乗ってみたい!」 せつなが指さしたのはメリーゴーランド。 優しい光と、楽しい音楽。可愛い動物達に乗って回転に身をまかせる。誰に振ったかわからない手を見つけて、せつなは手を振り返した。 「とほほ、この歳で乗ることになるなんて」 「まあまあ、このポニー、家で預かってる子にお鼻が似てるし」 「知らないわよ、そんなの」 「恥ずかしくないよ、美希たん。あたしは今でも好きだよ」 次はコーヒーカップ。 緩やかな螺旋を描きつつ、高速で回転する。――いや、高速なのは一重にラブのせいだ。 せつなは平然と、美希と祈里は抱きあって悲鳴を上げていた。 「いっくよ~」 「ちょっと、ラブ、早すぎよ!」 「ラブちゃん目が回る」 「複雑な動きね。サイクロイド曲線になっているのね」 「だから……知らないわよ」 そして……観覧車で休憩。 コトコトコト、ゆっくりと上昇していく。室内は冷房が効いていて快適だ。 ラブは案内図を見ながらせつなとコースを確認する。美希と祈里は……。 「う~~気持ち悪い。酔った……」 「はい、美希ちゃん。乗り物酔いのお薬、先に飲んでおけばよかったね」 そう言う祈里も、青い顔をしながら薬を飲み込んだ。 そして、ジェットコースター! 最近リニューアルされた目玉アトラクションだ。 ゴンゴンゴン。ゆっくりした上昇から一気に急降下する。自由落下に迫る下降速度は、人体の感覚を狂わせ混乱に陥れる。 水平回転、宙返り、垂直ループ。バンク角度と高低差がついた急カーブ。次々に襲いかかる恐怖に乗客は絶叫する。 「「「きゃぁぁぁぁぁ!!!」」」 みんなも叫んだ。ラブは笑顔で、美希とブッキーは目を閉じて。 せつなはそんな様子を、不思議そうに見ていた。 「どうしたの、せつな? 楽しくなかった?」 「楽しくないわよ、アタシは死ぬかと思った」 「うん、怖かったよ~~」 「どうして……。――ううん、なんでもない」 乗り物は疲れたので、お化け屋敷に入ることにした。 このお化け屋敷は、本格派と評判も高い。 ラブはせつなと。美希は祈里とそれぞれペアを組んだ。 「きゃぁぁ! せつな、あれ! あれ!」 「落ち着いて、作り物よ。そっちはただの水蒸気よ」 「いゃぁぁぁぁぁ!」 「大丈夫よ、美希ちゃん。この子たちは可愛いよ」 なんとか出口にたどり着いた。 「なんか色々疲れた……」 「わたしは楽しかった!」 「あたしもすっごく楽しい。せつなは? あれ……せつな?」 「ねえ、ラブ。どうして……わざわざ恐怖を与えるような物を作るのかしら。ジェットコースターにしてもそう。スピード感を楽しみたいにしては、度が過ぎていたわ」 不満、と言うほどでもない。ただ、何か釈然としないとせつなは語った。 実際、出口から出てくる子供たちの中には、恐怖で泣いている子も少なくなかった。 そして、そんなものほど人気が高いのも納得がいかなかった。 「えっと、なんて言うんだろう? 怖いから楽しいというか」 「叫ぶのが気持ちいいのかな?」 「勇気を試すのよ……多分」 ラブたちの説明も、どれも満足のいくものではなかった。 (この世界で育っていない私には、理解できないのかもしれない) なんとなく寂しい気持ちになる。 「えーん、えーん。おにいちゃん。ぱぱ~、まま~」 小さな女の子が泣いていた。迷子らしい。ラブたちは駆け寄った。 「どうしたの?」 ラブはしゃがんで事情を尋ねる。祈里はハンカチを取り出して涙を拭う。 美希は係員を呼びに走った。 手際のよい行動に、せつなは目を丸くする。自分は何もできなかった。 少し考えて、アイスクリームを買うことにした。甘いものを食べれば、少しは気持ちが落ち着くかもしれない。 「はい、どうぞ」 お姉さんたちに囲まれ、優しくしてもらって安心したのだろう。お礼を言って女の子は食べ始めた。 そのまま、しばらく話し相手になった。両親とはぐれて兄妹だけになったこと。そのお兄さんともはぐれてしまったこと。 話していて恐怖を思い出したのか、また泣き出しそうになる。大丈夫よ、そう言ってせつなは抱きしめた。 遊びにきて、怖い思いをする。残念なことだと思う。 「あっ! ぱぱ~、まま~、おにいちゃん~」 女の子が、迎えに来た家族を見つけて駆け寄った。抱きついて号泣する。そして、すぐに満面の笑顔を取り戻した。 その子のご両親が丁寧にお礼を言う。 別れ際、その笑顔を見て思う。それは――今日見たどんな笑顔よりも輝いていると。 でも、どうして……。 そう考えて、思い至る。あの子の心を満たすもの。それは――安心。 はぐれるという不幸を体験したことで、普段感じていない、家族と一緒にいられる幸せを実感したんだ。 幸せと不幸は隣り合わせ。幸せを求めることは、ただ不幸を否定して遠ざけることではないのかもしれない。 だったら……。 ジェットコースターもお化け屋敷も、同じなのかもしれない。 安全に恐怖を体験することで、無事帰還する安心と喜びを得るためのアトラクション。 やっぱり……この世界の全ては優しさに満ちている。せつなは嬉しくなった。 「ラブ~美希~ブッキー~! 私、もう一度ジェットコースターに乗りたいわ。行きましょう!」 「うん、行こう。せつなっ」 「「えぇぇぇ――!!」」 せつなとラブは、それぞれ嫌がる美希と祈里の手を取って駆け出した。 「ねえ、ラブ。私はあまり恐怖は感じないの。だから、みんなほどさっきは楽しめなかった」 幼い頃からの訓練の繰り返し。その中にはGの耐性訓練も含まれていた。 「でも、今度は楽しんでみせる。精一杯、大声で叫んでやるんだから!」 そう言って笑うせつなの表情は――やっぱり今日一番に輝いていた。 たくさんの人が波を作る。 波は大きな流れとなって人々を導く。 大勢の人が同じ目的で列を成して歩く。繋がり、共感し、分かち合う喜び。 思いやりに満ちた施設と催し物。 家族、友達、恋人同士。 緊張と恐怖と安堵。 そして思い出す――幸せ。